花は、見ていた……

 その花は、確かに咲いていたのだった。

 すべてが、氷の下に埋もれてしまった今も、確かに咲いていたのだった。

 氷の下の大地は放射能にまみれ、さんざんに傷つけられていた。

 今は、その白い星にとり、癒しの時間なのだった。

 その花は、雪と氷で覆われたその星を、じっと見ていた。その星のたったひとつの衛星から。その衛星が、かつて『月』と呼ばれていたときから。

 月をテラフォーミングし、農業が可能な衛星にしよう、という、人類の浅はかな目論見を、たった一群れ生き残ったその酸素生成用耐真空植物が知ったら、どう思っただろうか。

 花は咲き、実を結び、種となり、あるものは死に、あるものは生きた。

 植物はどれほどの間生き残れるだろうか。

 一万年にわたる間氷期の後、再び雪玉と化した地球が、元の豊かな生物群を取り戻すまで、枯れずにいることができるだろうか。

 雪玉が溶けてから数億年、いや数十億年かけて進化するであろう、まだ見られぬ生物たちが、死に絶えた人類よりもましな知恵とともに月へたどり着いたときに、緑の園として迎えられるまで枯れずに生きていられるだろうか……。



スノーボールアース仮説
『……原生代初期のヒューロニアン氷河時代(約24億5000万年前から約22億年前)の最終期と、原生代末期のスターチアン氷河時代およびマリノニアン氷河時代(約7億3000万年前〜約6億3500万年前)に、地球表面全体が凍結するほどの激しい氷河時代が存在したという考え方が地球史の研究者の間で主流となりつつある[。これをスノーボールアース仮説といい……』(ウィキペディアより)